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recipe 階段 

ばあちゃんそれって修行みたいだな
なんでそんな想いをしてまで結婚を続けるんかな
それはな結婚っちゅう階段を途中まで昇ったら
簡単に降りれんからじゃ
コワイ階段なんだな結婚言うのは
ばあちゃんがミキオをじっと見た後に
にやりと微笑んで
半分は冗談で半分はほんまじゃ
ミキオもして見れば解る
なんで続けるのかがな
なあそうだろうタカオ
そうだなばあちゃん
ミキオも結婚したら解るよ
オレとばあちゃんを交互に眺め
ミキオは暫く予定がないから
オレにシテみれば
永遠のテーマみたいなもんだ
そんな大そうなもんじゃないわと
ミキオはばあちゃんに一蹴され
早く家に入れてとミキオのばあちゃんに
2人して家に連れて行かれ
笹団子を食わされた
帰りに嫁と子供に土産じゃからと
手提げの籠に溢れるくらいの笹団子を持たされた
家の玄関まで送りに出てくれたミキオが
また寄ってよ
ばあちゃんあんな感じだけど
喜んでるから
解ってるよ子供の頃から知ってるから
また寄るようにするよ
じゃあと言いかけて
ミキオ連中には近づくなよ
ロクな眼に合わないぞ
ミキオは伏せ目がちに
ばあちゃんにも
同じ事を言われてるよ
なおさらだな止めて置く方がいい
タカオさんまでそう言うんなら近寄らないようにするよ
ミキオ身を守る単純な方法は何だと想う
銃を持つ事とか?
もっとシンプルな方法が在る
それは関わらない事だ
場所でも人でも
危険な匂いのするものにはな
手間が掛からず誰でも出来るこの手段は
戦わずして勝つ
そんな感じだね
そんな感じだ
じゃあなミキオ
軽く手を振ってミキオの家を後にした

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recipe 笹団子


最近逢ってなかったけど
ばあちゃん元気なのか?
とても70には見えないないくらい元気だよ
今日も畑に出てる
ミキオのばあちゃんには笹団子をよく食べさせて貰ったな
今も暇な時によく作ってるよ
ばあちゃんの笹団子は甘さがわりと少ないから食べやすくってオレは気に入ってるんだ
それは言えるよな甘すぎると後から胃が重たくなるよな
ミキオはそうだよねって頷いた後に
タカオさん時間ある?
これから家に帰るだけだから長くならないなら大丈夫だ
じゃあオレの家にちょと寄ってよ
ばあちゃんも喜ぶだろうしさ
そうだなミキオのばあちゃんの顔でも見に行くか
ミキオの家は桜の樹から歩いて10分程のとこに在る
合掌創りの大きな家で庭には鶏を放し飼いにしてあり
柴犬が一匹犬小屋の近くで寝転んでいた
ミキオがシロと犬の名前を呼ぶと駆け寄ってきて
じゃれついた
犬の名前は誰が付けたのかミキオに聴くと
ばあちゃんとの事だった
名前の候補はシロとクロの2択だったが
シロの方が縁起が良さそうだったので
シロになった
なんかイメージ的にクロは絶対違うよなミキオ
ミキオは笑いながらシロの頭を撫でて
似合ってる名前で良かったなシロ
その姿に普段からシロを可愛がってるミキオの空気が漂う
振り向いたミキオが
タカオさんは犬を飼わないの?
飼わないよ可愛いとは想うけど
オレより先に死んでしまうだろ寿命が短いから
そういうの考えるとどうも飼う気がしないんだ
それは仕方のない事だね
受け入れるしかしょうがないんだけどね
たぶんね一緒に生きたって時間があれば
そういうのを曖昧にしてくれるんだと想う
いつか想い出に変化するってやつだよ
想いでか口から言葉が零れた時に
背後からタカオじゃねえのか
しわがれた声が耳に届いた
ミキオの祖母が畑から戻ったとこだった
タカオ久しぶりだな笹団子食ってけ
ばあちゃんの笹団子食べに来たんだよ
返事をすると
わしのは美味いからのうと眼を細めて
顔に笑みを湛えた
傍に立ったミキオのばあちゃんは
腰も真っすぐで
背丈も同じくらいだ
同じようなモノを食べてるのにミキオは
身長が一周り小さい
遺伝子の設計図の違いだろう
タカオ嫁とは上手く行ってるんか?
問題なく過ごしてるよ
ミキオのばあちゃんは2度頷き
大事にするのは大事にされる事じゃなからな
横からミキオが哲学的だなばあちゃんと口を挟む
ミキオそれは哲学でもなんでもない
単純な事だ
単純な事を複雑に考えるから難しくなんるんじゃ
笹団子も同じでな
こねくり回し過ぎると
味が壊れる
人間関係も同じじゃ
ばあちゃん
何だ?ミキオ
結婚するのも単純な事なのか?
正確に言えば
結婚の式を上げるのは単純な事じゃが
結婚した後の生活を送るのは
単純じゃない
労力と忍耐とが必要じゃ

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recipe 現実の話


アナタならどうしたの
今度は妻からの質問だった
オレなら同じだな
眺めてるだけだ
大勢の中に混ざるなんてぞっとする
それにしても変わったやつだな
沢山の土産物を配るなんて
余程余裕があるんだな
妻は耳を傾けながら
本物の余裕のある人はね
そんな見せかけの振る舞いはしないものよ
アレはね偽物が本物らしく見せようとしてる行為なのよね
そういうモノなのか?
そういうものよ
意味があるのかな?あの行為は
妻は少し間を置いて
海でね漁をする時にね
撒き餌をやるの
魚をね一つの場所に集める為に
一定の期間餌を撒くの
最初は少なかった魚も
そこが餌場だと想ってね
大量に集まるようになるの
撒き餌をした以上の魚がね
それを網で収穫するのよ一気にね
其処の魚が居なくなるまでね
その場所で魚が取れなくなれば
撒き餌の漁は終わりなの
場所を変えて別の場所でまた餌を撒くの
収穫の為の罠なんだな
しかし
こんな山奥の集落で餌を撒いても
大した収穫はなさそうだけどな
お金持ちが居る分けでは無いし
妻は耳元に口を近づけ
囁くように
人がねお金に成るのよ
冗談だろっと想ったが
妻は真顔だった
解りやすく言えば
奴隷として売るのよ
そんな話しは都市伝説かと想ってたよ
現実の話しよ
だから連中に近寄らないようにね
解ったよ
時間の経過と共に集落の殆どの人は連中を受け入れ
夕暮れが過ぎると集会所での宴会が日常になった
酒や肴を摘まんでの騒ぎは夜更けまで続く
猟師の仲間に幾度か誘われたが
酒と騒ぎは苦手なんだと断り続けた
付き合いの長い連中なので
それ以上の無理を言う事は無かった
そんな中で
狩猟の帰りに集落の外れに一本の大きな桜を眺めて居る時に
ミキオと出逢った
ミキオは3才年下で子供の頃からわりと親しかった
控え目な性格であまり騒いだりしないところが性格の波長があったのだろう
少し疲れた雰囲気を漂わせたミキオは
タカオさん猟の調子はどうですか?
暮らして行ける程度には獲れてるよ
ミキオは?
秋に獲った鮭もそこそこ売れたし
かんずりの売上もあるから生活は
苦しくないんだけど
連中が来てから生活のリズムが狂ってちょとね
付き合いで連れて行かれてるミキオの姿が思考に浮かぶ
断ればいいんだよミキオ
なるべく断るようにしてるんだけどね
周りが結構感化されててね
連中のとこに行くのが日課であり楽しみになってる
そこに行けば何か楽しい事があるみたいな想像を持ってるんだ
そういうイメージを植え付けられたんじゃないのか?
それは在るかもね
実際には酒飲んで美味いもの食べて騒いでるだけだろ?
そんな感じそれと賭け事もね
最初はね連中は負けてたんだけど
最近では勝てなくなってる
タマに誰かが大勝ちをしてりはするけどね
ミキオそれは連中の手の内で踊らされてるんだよ
たぶんそうなんだろうけど
誰もが嵌って止められなくなってる
ミキオもそれをやってるのか?
オレはやらないよ
ばあちゃんがうるさいんだ賭け事だけは手を出すなってね
年齢の割にはでかい体格のミキオの祖母の顔を想いだした


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recipe 在るがまま


オレはそう感じるのだが
実際のとこ妻はどうなんだろう
帰宅して僅かな疑問を妻に尋ねた
単純な事だが
子供がもっと欲しいと想うかとか
家族は大勢の方がいいかとか
妻は耳を傾けた後に
質問に対して質問で応えた
アナタはどう想うの?
少しだけ間を置いて応えた
大勢は苦手だ
知ってるわ
私もそうだもの
無理をしなくていいのよ
在るがままに生きればね
世間になど合わそうとせずにね
諭すような口調で妻は語りかけた
そうか
それならいいんだ
オレは少ない家族で育ったから
それでいいんだが
お前はどうなんだろうと想ってな
それは私も同じよ
最初に出会った時言ったでしょう
そうだったな
ねえそれより千鶴も寝た事だし
潤んだ瞳で妻の柔らかな手が触れ
濡れた唇が纏わり付いてきた
妻の中で幾度も果てて
妻のほてった身体を
抱いてる時に
在るがままに生きれば
妻の言葉が頭の中で繰り返された
他人の生き方を模倣しても
出来るものじゃない
自分の生き方しかできないのだから
今の生活は気に要ってる
この生き方を続ければいいだけだ
この生活しか出来ないのも現状だが
これが自分の在るがままだ
妻の肌からは温もりが伝わってくる
幸福ってやつは
他人の温もりが在って感じる事が出来るのかもしれない
妻の肌と幸福感を感じながら眠りに落ちた
在るがままに生きれば
妻とそんな話しをしてから3年が過ぎた
千鶴は散歩にも付いてくるし
妻の家事の手伝いも出来るようになった
簡単な読み書きも出来る
集落の人に名前を尋ねられれば
千鶴ですと応えられる
妻との仲は相変わらずで狩猟にも時々一緒に出掛ける
その時は決まって獲物が手に入る
妻が言うには山の神が味方してくれるからだそうだ
狩猟の仲間が言うには腕が上がったのと
運を妻が運んでくれてる
どちらの言い分も当たってるのだろう
散り始めた桜の花が風に舞う頃に
集落に少しだけ変化が起きた
コウジと言う男が集落に戻ってきた
この集落で生まれた男で年の頃は40過ぎで
20代まで此処に居たが
粗暴で賭け事の好きな男で
集落のあちこちでトラブルを起こしていて
誰にも相手にされないようになり
居辛くなり在る日出て行って
それっきりだった
帰って来たコウジはとても高そうな衣類を身に着けていて
従者5人と馬2頭を従えていた
コウジは集落の集会所の前で集まった人達に
若気の至りで此処に居た時は随分と迷惑をかけた
今はそれなりに成功して余裕も出来たので
その恩返しも兼ねて生まれ育った此処に帰ってきた
そう挨拶をして
馬に積んである荷物の中から
土産だから受け取って欲しいと
酒や食べ物そして衣服を振るまった
集まった人々は最初警戒していたが
一人が品物を受け取ると
後はもう雪崩のように誰もが手を出した
好奇心と興奮が渦を巻いて
誰もが飲み込まれた
それをコウジと従者は微笑みを湛えながら
静かに見つめていた
狭い集落の中で噂はすぐに耳に入り
夕飯の時に妻にその事を語った
妻はその一部始終を少し離れた場所から
静佇してたとの事だった
欲しいと想わなかったのか?の問いかけに妻は
祭り事は嫌いなのよの一言だった

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recipe 子供


翌日山一つ越えた街の市場に鹿肉を売りにでかけ
高値で売る事ができた
今年の豪雪で鹿は不猟だった為
高値が着いたのだった
収入が3カ月無くても暮らせる程の金額だった
男は妻の功績もあるので
妻に土産を買って帰った
鹿の代金と土産の袋を渡して
靴を脱いだ頃に妻の喜びの声が漏れた
妻の手には1本の朱色の簪が握られていた
似合うと想ってと妻に言葉を伝えた
とても素敵な簪
妻の口から溜め息めいた言葉が零れた
束ねた黒髪に妻は土産の簪を挿して見せた
その朱色の簪は妻にとても似合っていた
鮮やかな朱色が妻の持つ艶のある黒髪や
静かなる佇まいの美しさを引き立たせている
とても似合っている
妻はとても嬉しそうだ
女は贈り物を喜ぶ
誰かが口にしていたのを想いだした
時々こうやって妻を喜ばせてやろう
それは言葉にせず心で密かに決めた
簪がよほど気に要ったのか
それとも男の行為が嬉しかったのか
それ以降寝る時意外は簪は常に妻の髪の中にあった
朱色の簪が妻の髪に在るのが日常となった頃に
少しづつ妻の腹がふっくらと膨らみ始め
雪が融け春が訪れた頃には明確になった
数か月もすれば父親になり母親になるのだと
その年の夏が過ぎ冬の訪れを肌で感じる頃に
妻は女の子を出産した
名前を千鶴と着けた
鶴のように永く生きれますようにと
美し在りますようにと
千鶴は1年も経たない内に
歩く事が出来るようになり
言葉を憶えるのも早かった
容姿も子供ながらに妻の面影を携えてる子で
可愛らしさの中に美しさを湛えていた
それを妻に漏らすと
それはただの親ばかよと
笑われるだけだった
それと
錯覚だろうなとの想いはあるのだが
千鶴を見てると
そこに妻の幼少を見てるような感覚があった
それを集落の幼馴染の妻に語ってみた
女から見たらそういう感覚はないのか
確認して見たかった
幼馴染の妻は自分の生んだ女の子を見てると
隣に子供の頃の自分が居て
同じ事をやってる感覚かなと
語ってくれた
感じた事と同じようなんものだと納得した
ついでに男の子だったら
どんな感じか尋ねた
彼女は即答でまんま旦那の子供の頃
そう応えた
彼女は女の子一人と
男の子2人産んで居る
生活は大変だが子供はまだ欲しいそうだ
その感覚は理解できそうになかった
単純に男と女の感覚の違い
もしくは育った環境の違い
少ない人数の家族で育ったから
大勢居るのは馴染めそうもなかった

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recie 奇妙な感触


伏せている2人の姿を隠すように
動くなよそう願いながら
這いずり前に進む少しづつ
降る雪の勢いは増し続けれる
雪のカーテンが敷かれたようだ
10m程の距離を詰めるのに5分程かかった
鹿は射程距離の中に入った
猟銃を構え鹿に的を向ける
引き金に指をかけ絞る
その時に鹿が首をこちらに向け
視線が合った
逃げられる
瞬間に想ったが
鹿の瞳の中には
逃げられないと悟った悲哀が混じっていた
それは心で感じたその瞬間の鹿との交信だった
次の瞬間には猟銃の引き金を絞っていた
銃声が響いた時には鹿は倒れていた
倒れた鹿に駆け寄った時には
鹿の体温はまだ温かく
生命の残骸があった
妻は鹿の身体を触りながら大きな鹿ねと
微笑んでいたが
奇妙な感触が残っていた
仕留めた鹿はあの瞬間に逃げる事が出来たはずなのに
逃げなかった
いや逃げる事が出来なかったのか
今迄の経験ならあの一瞬で確実に逃げられていた
ねえまず血を抜くのでしょう
妻の声に我に還った
身体と思考が
後処理の行動のモードに変化する
鹿の血を抜き肉の劣化を防止させ
木を集め簡易のソリを作り
仕留めた鹿を載せ
妻と2人で引いて家に向かう
この工程が2人だと最も助かる
100キロの獲物を雪の上で滑りやすいとは言え
引いて行くのは
一人だととてもつもない重労働だ
鹿の重みをソリを弾く手に感じながら
妻を猟に連れだした事は良い結果に繋がった
それをひしひしと想った
生活して行く上でも良いパートナーだが
猟に置いても良きパートナーになるのでは
家の事もあるので
頻繁には無理だろうが
時折り妻とこうして猟をするのも
悪くは無いな
獲物を得て帰る妻との家路は
一人での時とは違う味わいだった
一人の時より断然早く帰り着いたが
それでも夕暮れに近い時間だった
男は早速鹿を解体し
妻は風呂と夕飯の準備にかかった
部位を切り分け適度な大きさに鹿の肉をカットし
売り物と自宅で使う肉に分け
夕食用にと妻に肉の一部を渡した
妻の手によって鹿肉は
表面を炙って冷水で締めたタタキと
味噌とニンニクを使った鍋になった
鹿肉のタタキはとても柔らかく
噛むと口の中で肉汁がじんわりと沁みて来る味わいで
絶品だった
今迄食べた鹿肉の中でも
これほど上手く感じた事はなかった
妻も鹿肉の味に眼を細めて喜んでいた
雪子時々でいいのだけど
また猟に出かけよう
鹿の味を堪能しながら
妻に言葉をかけた
そうねまた行ってみたい
妻は鍋から移した小皿にかんずりをかけながら
視線だけ男に向け応えた
妻の瞳の中には好奇心が見えた
きっと狩猟が新鮮に想えたのだろう
自分自身も初めて狩猟に連れて行って貰って
猟銃で獲物が倒れた時の瞬間に興奮を憶えた
その感覚が今の妻に在るのかもしれない

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recipe 鹿


1時間程歩き
休憩を取った
雪山とは言え足場を取られる雪道を1時間も歩けば
うっすらと汗が滲む
隣に腰をかけた妻の様子を見ると
涼しげな顔で息一つ乱れていない
意外と女の方が持久力は在るもんだと感心する
座って妻と談笑をしてる時に
男は少しだけ狩りのレクチャーをした
動物の足跡や糞が雪に残っている
それを身落とさない事が大事だとか
動く獲物を見つけても
自らが動けば
自分の位置が風上だとすぐに悟られる
伏せて待ち
悟られないように近づき
一撃で仕留める
狩猟とはそういうものだ
狼の狩りみたいねと妻は言葉を漏らした
男は頷き
似てるかもなと呟いた
10分程休憩を取り
再び歩きだした
視界に映るのは全てが真っ白な雪に覆われた木々や山の斜面
動くモノのない無音の世界に2人で居るようだ
獲物の痕跡も姿も何処にも見当たらない
ただ雪の世界だけが延々と広がっている
確実な事は
獲物は何処に静かに潜んでいる
それを見つけられるか
それとも見つけられずに徒労に終わるか
何れかだ
妻の足のリズムなら当初の予定を変更して
獲物の潜んでいる可能性の高い山の奥近くまで足を延ばしても大丈夫だろう
そう判断して
ルートを変更して山の奥の方に向かった
妻はペースを乱さず黙々と着いて来る
途中で休憩を1度取り
時間にして昼前に当たる頃
妻が雪に埋もれた岩山の影を指差し
鹿の影が見えたとそっと背後から耳打ちをした
見渡す限りでは鹿の姿は無く
静かな雪景色だけが横たわって居る
岩山までの距離は約80m
男の持つ猟銃の射程距離は無風状態で約70m
向かい風だとさらに距離は短くなる
男は妻に腰を屈めるように手で合図をし
自身も屈み背中に背負っている猟銃を降ろし
腹ばいになった
柔らかく冷たい雪の感触がじんわりと身体に伝わる
隣で妻も同じ姿勢を取り
岩山に視線を張り付かせている
静止した風景に溶け込んだ2人に時間だけが流れる
空からは小さな粉雪が舞い始めた
視線の先の岩山の付近にも粉雪は
舞い降り真っ白な雨のように
風景の絵具で世界を塗り変えて行き出した
小さな風が頬を撫で通り過ぎる
舞い降りる雪に小さな変化が現れる
雪の流れが左右に揺れぶれたように見えた
次の瞬間には流れは巻き上がる渦に変わり
粉雪を巻き散らし始めた
岩山の影から雪が大きく動いた
そう見えたのは眼の錯覚で
潜み雪に塗れた大きな鹿だった
遠目だが体重は100キロ程ある大物だ
鹿の姿に反応して猟銃の先を向けるが
射程距離に及ばない
鹿はこちらの存在に気が付いていない
首を振り辺りを窺っている
渦を巻き舞い散る雪にただ動けずに居る
小さな粉雪は粒の大きな雪に変化して空から降り注ぐ


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recipe 狩り


その日から女との暮らしが始まり
家事や料理は女が全てするようになった
それがとても自然な日常のように
以前からずっと続いてる暮らしのように
女はとても滑らかに生活の中に融け込んでいった
眼を覚ました時には女の肌があり
眠りに着く時にも女の肌がある
それが日常で在る事に変化した
女と暮らし始めた事は集落の人々にすぐに知れた
最初は突然に現れた女の事を不審に感じてるものも居たが
男に対する献身的な女の態度や
2人の幸福そうな暮らしぶりから
その想いは消えていった
同居を始めて半年も経った初夏を迎える頃
籍を入れて2人は夫婦になった
このままでもいいけど
男の腕枕の中で女は小さく呟いた後に妻の座を男に望んだ結果だった
男もそろそろそんな話しをすべきかなとは想ってはいたが
口に出せずに居た
シリアスは話しではないが
重要な話しは切りだすタイミングが難しい
それを先伸ばしにしていた
夫婦になって何かが眼に見えて変わった訳ではなかった
同じような日常が続く
僅かな違いは
少しだけ関係性に根が這ったような感じがした
2人自由に咲く花だったのが
樹に変化した
これから沢山の枝を着け
花を咲かせ
伸びて行く樹になるのだろう
朽ち果てるまで
夏も過ぎ
足早の秋が行き
夫婦になって初めての冬は
豪雪だった
男は山に猟に出るのだが
獲物を見つけられず手ぶらで
帰る日々が続いた
猟で獲物を持ち帰る事が出来なければ
収入は入らない
貯は在るのだがこの状態が延々と続けば
それも何時かは食い潰す
雪深い山の中では他に変わる収入源もない
狩りに頼るしかない
落胆の色が日々濃くなって行く男に
妻となった女が
夕食の後声を掛けた
明日は私が一緒に狩りに行きましょうと
男は何を言いだすかと想ったが
雪に埋もれた家の中で只管待ち続ける
日々を送る妻も辛い想いをしてるのではないかと考え
気分を変えるのにもいいのかもしれないと想い
妻の提案を受け入れた
奥深い山の中に入らなければ危険はないだろう
そう考えた時に
あの小屋の中で出あった雪女の事を想いだした
約束は破るなよ
約束は破るなよ
言葉が頭の中で繰り返される
鳥肌が身体に走る
あの場所にだけは今でも近づかない
翌日早いめの朝食を取り
2人は狩りに出た
灰色の曇り空からは粉雪が静かに降っていた
男は妻の事も考え無難なルートで山に入った
膝まで雪に埋もれる道を歩きながら
幾度か降り返るが
妻は慣れた足取りで後ろからぴたりと付いて来る
雪山の猟で鍛えた足腰だと自身があったのだが
妻はそれを遥かに凌駕する足取りだった
意外な妻の長所を見たようで
男は驚きもあったが
それより単純な喜びが大きかった

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recipe 女の居る暮らし


女の瞳の中に
濃密で官能的な雰囲気が
渦を巻き
身体からも匂い立ってる
女の肉体への欲望が挑発される
柔らかそうな唇だ
そう想った次の瞬間には女の唇が
塞いで舌が口の中で纏わりうごめいてた
囲炉裏の火の燃える横で
裸になった女と何度も抱き合い
背中に手を廻し足をきつく絡める
女の中で幾度も果てた
幾度果てても欲望の火は収まらず
女の身体から発散される欲情の
波に煽られ
憑かれたように抱き続け
時間が経つのも忘れ
明け方近くに倒れるように眠りこんだ
目覚めた時には既に正午近くで
身体に触れる裸の女の肌の温もりがあった
おはようと女の口から柔らかで湿った声が漏れる
女の指が身体をそっと這い
気持よかった
耳元で囁く
女の濡れた瞳と視線が絡み合い
返事の代わりに舌を絡め合う
寝起きの欲情の火は
女の中で3度果てて
ようやく収まった
暫く女と余韻を漂った後に
ご飯は私が作るわと
女が立ち上がり身支度を整え
食事の用意をしだした
米を炊き大根を刻み
干物の鮭を焼く女の後ろ姿を見て
とてもそれが新鮮に想えた
自分の家の中で女が料理をする姿を見るのは
初めてだった
一人で暮らすのに不自由はないが
女の居る暮らしもいいものかもしれないな
そんな事を考えた
女は料理を作るのは慣れてるようで
男よりも手際良くスムーズに
作り出来た料理を並べた
焼いた鮭に出汁巻き卵
大根の葉の浅漬け
しめじとほうれん草のおひたし
ワカメと大根の味噌汁
並べられた料理は自分の作る料理よりも
色彩が鮮やかだった
こんなとこに男と女の違いが出るんだろうなと感じた
味も女の作る料理は美味かった
それを女に伝えると
微笑みながら喜んだ
食事を終え片付けた終わった女を
この辺りを散歩してはどうかと誘い
2人で雪の積もる集落の近辺や
山間の景色の良い場所を白く柔らかい雪を踏みしめながら2人で歩いた
空は青く澄み渡り陽に照らされた
雪の白さが眩しい程だった
集落の見える小高い丘に着き
腰を降ろし
模型のようなサイズに見える
雪に覆われた三角形の合掌作りの家並みを眺めてる時に
女が身体を寄せて手を握り
暫く此処に居てもいいかと聴いてきた
アナタとはとても相性がいいみたいだし
心も身体も含めてね
それにこの美しい風景はとても心が落ち着く
此処に住んでみたいと
好きなだけ居ればいいよと
男は女に応えた
このまま女と暮らす事が
とても自然な成り行きに感じた


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recipe 一人


女はお茶を一口飲み
女同士ってね
難しいのよ
血が繋がっていても
繋がってなくてもね
同居となると尚更ね
囁くように呟いた
女同士か・・
男の口から声が漏れた
解らないでしょう?女同士の確執なんて
解らないな身近にそういう存在も居た事がないし
近い話しなら
知り合いや友人から聴かされる
嫁と姑の話し
ただ自分に関わりが無い分あまりリアルに感じられない
そうね
聴いてるだけなら本を読んでるのと変わらないものね
姉妹が居るとか女の多い環境に身を置かなきゃ
解り辛いでしょね
でも大変そうなのは解るよ感覚としてね
女の身の上に少し同情した
女は小さな笑みを口元に浮かべ
ありがとうと男に微笑んだ
女の微笑みで場の雰囲気が急速に和み
2人の距離が近くなったように感じた
女がもう少しそっちに行っていい?と聴き
膝と膝が触れる位の位置に座りなおした
身近で見る露出してる肩から見えるよ女の肌は
とても滑らかで妖艶だった
タカオさんは此処で一人で暮らすようになってどれくらい?
5年程経つよ父親が先に他界してその1年後に母親
それからずっと一人だよ
月並みな質問だけど一人で寂しいと想う事はない?
私は時々在るから聴いてみたいなと想ってね
女が目を覗き込むように言葉を吐いた
最初一人になった時は違和感があったよ
何か欠けたような感じのね
存在が消えた痕跡みたいなのがあってね
それが馴染まないんだ
生活の中でね
でも日が経つに連れ
薄まって行くんだ
一人だって事が日常になって
生活のサイクルになるとね
逆に一人って事が馴染んで行くんだ
今では一人に違和感は感じないよ
たぶんね
寂しさはね感じにくい性格なのかもしれない
痛みに敏感な人
あまり敏感でない人って居るでしょう
それと似たような感じでね
女は小さな頷きを繰り返し
タカオさんは一人で暮らせる人なのね
私が想うには2つのタイプに分かれると想うの
一人で暮らせる
一人では暮らせない人
多数派が一人では暮らせない人ね
私は一人では暮らせない人に分類される
旅を続けてるうちに
それが身に染みて解った
ほら旅をする事が自分探しだと言うでしょう
実際やって見るとね
それは少しずれてる事だと解るの
自分に出会うって事でもない
自分のタイプやサイズが明確になるの
日常生活で曖昧になってるものが
削がれて余計なものが落ちるのよ
正直になれるのよ
自分にも他人にもね
それを言葉や態度で表現するか
どうかは別にしてね
正直になれるか・・
呟きが口から零れた
そう正直になれる
女が言葉を被せる
簡単なようで難しそうだね
女は首を傾げて覗き込むように見つめて
タカオさんは旅に出る必要がなさそうね
とても正直な人に見れるもの
そうなのかな自分で解らないよ
自分自身のそういう部分は
女は柔らかな手をそっと膝の上に載せ
顔を近づけて
囁くように
私には解るわ沢山の人を見てきたから


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