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recipe 異質


雪子さん
呼ばれた女は僅かに笑みを浮かべた
美しさと儚さを纏ってるような独特の存在感を
漂わす女だった
此処で生まれ育った女じゃない
人間の持ってる質のようなものが異質だ
それを感じる
此処の人間は良く言えば大らかさが在る
油断とか隙みたいなもんが身体に馴染んでる
雪子と呼ばれた女にはそれが馴染んでいない
拒絶してる匂いがする
オレ自身も似たようなとこは持ち合わせているが
何かが違う
あの女みたいには慣れないって何かだ
黒蜜が千鶴ちゃんと子供に声を掛けてを振る
呼ばれた子供も小さな手を振り
黒蜜に向かって駆け寄って来た
黒蜜が大きくなったね
と子供を抱き上げる
こういう自然に子供に接する動作がオレには出来ないなと心で呟く
男と女の違いなのか環境なのかは
解らないが苦手だ
オレに取ってはだ
たぶん家庭とか家族を持つ事に向いてないのだろう
子供が笑いながら黒蜜黒蜜と呼んでいる
エライねえ千鶴ちゃん私の名前を憶えてるんだ
眺めているオレの視線に子供の視線がぶつかり絡まった
子供の瞳が大きく覗く
オレも覗き返すが
こんな時は次にどうすれば良いかが解らない
とりあえず
団子を食うかと勧めてみた
お団子お団子
子供が笑う
黒蜜に団子を食わせてやれと
告げると
黒蜜が団子を一串掴み
子供が食べやすいように串の上の方に団子をずらして
食べさせ始めた
子供にも団子なんて優しいんですねと黒蜜が言葉を零す
たかだか団子だ
大した事じゃない
それにお前もまだ子供じゃないか
そうでしたね
背後から静かに声が降って来た
お団子頂いてありがとうございます
雪子と呼ばれた女が
佇んでいた
気配を全く感じさせずに
黒く深い瞳が顔を射す
視線を外さずに黒蜜のお知り合いと
小さな質問を投げかける
黒蜜がさっき知り合ったばかり
団子を分けて貰ったのと
お寺に来てる棺桶屋さんよと
そうなんだ見た事が無い人だねと想ってね
ちょと住職に用が在って立ち寄った帰りに
此処で適当に団子と酒を飲んで居るとこなんだ
気持良さそうね此処でお酒なんて
女の眼には笑みが浮かんだ
あんたも飲むかい?
この子を連れてるんで遠慮しとく
気を使わないでいいのよと
言葉を続けて
千鶴ありがとうを言った?
次の団子を口に入れようと開けたままの口で
あっと気が付いた表情を顔に張り付けて
ありがとうおじさん
いいよ
笑みを浮かべ子供は口を開けて団子に向き直った
視線を上げて
周りを見渡した後に
呟くように女の口から
最近此処も妙な奴らが入って来てね
居座ってるようだから
その後は女の口から言葉は出なかったが
気を付けろの意味なんだろう
寺の住職もちらっとそんな話をしていたよ
そのうち出てくだろうって住職は言ってた
そうね満足したら出て行くでしょうね
こんな集落で何に満足するんだろうな
さあねと応えた女の瞳は意味在りげな影を湛えている

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