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recie 奇妙な感触


伏せている2人の姿を隠すように
動くなよそう願いながら
這いずり前に進む少しづつ
降る雪の勢いは増し続けれる
雪のカーテンが敷かれたようだ
10m程の距離を詰めるのに5分程かかった
鹿は射程距離の中に入った
猟銃を構え鹿に的を向ける
引き金に指をかけ絞る
その時に鹿が首をこちらに向け
視線が合った
逃げられる
瞬間に想ったが
鹿の瞳の中には
逃げられないと悟った悲哀が混じっていた
それは心で感じたその瞬間の鹿との交信だった
次の瞬間には猟銃の引き金を絞っていた
銃声が響いた時には鹿は倒れていた
倒れた鹿に駆け寄った時には
鹿の体温はまだ温かく
生命の残骸があった
妻は鹿の身体を触りながら大きな鹿ねと
微笑んでいたが
奇妙な感触が残っていた
仕留めた鹿はあの瞬間に逃げる事が出来たはずなのに
逃げなかった
いや逃げる事が出来なかったのか
今迄の経験ならあの一瞬で確実に逃げられていた
ねえまず血を抜くのでしょう
妻の声に我に還った
身体と思考が
後処理の行動のモードに変化する
鹿の血を抜き肉の劣化を防止させ
木を集め簡易のソリを作り
仕留めた鹿を載せ
妻と2人で引いて家に向かう
この工程が2人だと最も助かる
100キロの獲物を雪の上で滑りやすいとは言え
引いて行くのは
一人だととてもつもない重労働だ
鹿の重みをソリを弾く手に感じながら
妻を猟に連れだした事は良い結果に繋がった
それをひしひしと想った
生活して行く上でも良いパートナーだが
猟に置いても良きパートナーになるのでは
家の事もあるので
頻繁には無理だろうが
時折り妻とこうして猟をするのも
悪くは無いな
獲物を得て帰る妻との家路は
一人での時とは違う味わいだった
一人の時より断然早く帰り着いたが
それでも夕暮れに近い時間だった
男は早速鹿を解体し
妻は風呂と夕飯の準備にかかった
部位を切り分け適度な大きさに鹿の肉をカットし
売り物と自宅で使う肉に分け
夕食用にと妻に肉の一部を渡した
妻の手によって鹿肉は
表面を炙って冷水で締めたタタキと
味噌とニンニクを使った鍋になった
鹿肉のタタキはとても柔らかく
噛むと口の中で肉汁がじんわりと沁みて来る味わいで
絶品だった
今迄食べた鹿肉の中でも
これほど上手く感じた事はなかった
妻も鹿肉の味に眼を細めて喜んでいた
雪子時々でいいのだけど
また猟に出かけよう
鹿の味を堪能しながら
妻に言葉をかけた
そうねまた行ってみたい
妻は鍋から移した小皿にかんずりをかけながら
視線だけ男に向け応えた
妻の瞳の中には好奇心が見えた
きっと狩猟が新鮮に想えたのだろう
自分自身も初めて狩猟に連れて行って貰って
猟銃で獲物が倒れた時の瞬間に興奮を憶えた
その感覚が今の妻に在るのかもしれない

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